6月下旬、大分にある
「おおいた動物愛護センター」を訪れた。
きっかけはFamy chainの仲間
HACOKURA(谷口紙業)さんが主催する
にゃっちんぐ譲渡会(大分県別府市)での出会い。
たまたまプライベートで会場を訪れていた所長の渡辺さんとお話する機会があった。
譲渡会時、とてもわずかな時間ではあったがそのやさしい眼差しと、各団体さんとのお話を通じて「活動の背景を知りたい」という想いから改めて連絡し訪問をお願いした。
その訪問に先立ち
渡辺さんが一通の手記を共有してくださった。
言葉にならない想いが込められた、命の記録であった。
おおいた動物愛護センターから
受け継ぐ命のバトン
これは、大分県北部保健所で実際に勤務していた現・おおいた動物愛護センター所長の渡辺さんと、故・工藤さんが残した言葉と絵で、保健所の現場で働く職員の切実な想いを綴った真実の記録である。
「金曜日の朝、どうかシッポを振らないでくれ」
──そのタイトルだけで、すでに胸が締めつけられるような
想いになる方も多いのではないだろうか。
実際に手記を読んだ多くの人々が、自身の体験や想いを重ねSNSに投稿し深い共感の波が広がっている。
それは、「ただ悲しみを伝える」のではなく、「命と向き合う覚悟とやさしさを、誰かと共有したい」という強い意志の現れ。そして意志の連鎖が投稿というカタチで広まっているのではないだろうか。
今からおよそ17年前。
動物愛護の法整備が今ほど整っていなかった時代に
たくさんの葛藤や障壁と闘いながら、現場に立ち続けた人たちがいた。
それが、現・おおいた動物愛護センターの所長である渡辺さんと、当時北部保健所に勤務していた故・工藤さん。
保健所に勤務しているということから周囲の目も冷たかったと・・・。
「犬殺し」と呼ばれる日々。
こんなことをしたくない、だけど向き合わなければならない
死を待つことしかできない犬たちを日々お世話する指導班もこれでは浮かばれない
でも、本当は、一頭でも多くの動物を助けたい
その想いから渡辺さんと工藤さんは犬たちに寄り添い
向き合い続けていた。
そして工藤さんは難病を患ってしまい闘病生活の中でも犬猫に常に関心を向けていた。
この時、渡辺さんは工藤さんから「次の世代へのプレゼント – 次の世代に繋ぐ命のバトン 」として
継承していくことを託された。
工藤さんとの出会いこそが「動物の代弁者」として
やさしさの外側に置かれてしまっている声に
寄り添う活動へと突き動かしていく原動力になっていた。
社会で必要とされてること / したいこと / できること
渡辺さんは工藤さんからの「バトン」を受け取り、今日も精力的に活動されている。
しかし、その渡辺さんもあと8ヶ月で退任を迎える・・・
わたしたちが繋がなければならない
わたしたちが伝えなければならない
わたし自身、強い覚悟が芽生えた瞬間であった。
▼ おおいた動物愛護センター
公式HP:https://oita-aigo.com/
公式SNS:https://www.instagram.com/oita_animal_carecenter/
収容された犬猫に対して獣医師による検査を実施し
室内・室外両方の環境を整備している。
しつけトレーニングやボランティアによるグルーミング
そして猫舎には消臭・脱臭機械も完備されている。


施設内で災害時に抱っこ避難するときに備え実際の体重を体感するブース

家族募集中の猫ちゃんたちの性格マップ
― いかに職員さんたちが日頃猫と向き合いよく観察していることがうかがえる

敷地内には区分けされた大きなドッグラン(みどりのドックラン)も併設。一般利用も可能。
真実を伝える勇気――「命の授業」
「愛犬は、最後の最後まであなたを信じているはずです」
(引用;手記 – 金曜日の朝、どうかシッポを振らないでくれ」
手記に書かれたこの言葉は
すべての飼い主への切実な願いを感じた。
当時、保健所では引取拒否ができず
無責任な飼い主による安易な持ち込みが後を絶たなかったと伺った。
(2013年の動物愛護管理法改正により現在は動物取扱業者からの引取り・繰り返しての引取り・老齢や病気を理由とした引取り・その他終生飼養に反する理由を拒否することができる)
その状況下で渡辺さんは
飼い主の元に自ら出向き、語りかけた。
「楽しい記憶を思い出し、もう一度心と向き合ってくれ」と。
その言葉の奥には、犬や猫と過ごした時間が
“モノの処分”ではなく“命の決断”であることを
思い出してほしいという、愛情と怒りの入り混じった感情をわたしは感じた。
そして無責任な飼い主に対してやり場の無い怒りの感情が込み上げた。
今、大分県では命の現実と
向き合わざるを得ない状況が続いている。
令和4年度
・殺処分数:犬77頭、猫457頭、合計534頭
令和5年度
・殺処分数:犬56頭、猫508頭、合計564頭
令和6年度
・殺処分数:犬25頭、猫231頭、合計256頭
ここ数年の殺処分数を見ると減少傾向にある。
これは行政の取り組みに加え、多くのボランティアの方々が現場で手を尽くしてくださっている結果でもある。
この「殺処分」という言葉。
多くの人が目を背けたくなる現実が詰まっている。
それでも渡辺さんは、あえてこの言葉を使い続けている。
「安楽死」ではなく、「殺処分」。
それは、命を軽く扱ってはいけないという強いメッセージ
であり現実を歪めず正しく伝えるための覚悟でもある。
なお現在における「殺処分」では、動物たちに極力苦痛のかからない方法が採られている。
苦痛は少なくなったものの
命が失われることには変わりない。
そしてその処置を行う現場の方々も、決して割り切れる気持ちで向き合っているわけではない。
一頭でも多く救いたいという想いのもと、
日々葛藤しながら、少しでも穏やかな最期となるよう配慮された選択がなされている。
現実を直視する言葉を、あえて用いるのは
子どもたちに現実を知ってもらうため。
その取り組みが「命の授業」である。
「命の授業」は、大分県が動物愛護教育の一環として実施していて
大分県と大分市が共同で運営する特別授業のこと。
教材をベースに子どもたちに命の大切さを伝えることを目的としている。

(引用:「命の授業」教材)
動物とのふれあいや実話を通じて、命に対する理解を深める内容であり、訪問時に見せていただいた映像からは子どもたちが真剣に向き合う姿があった。
本当のことを伝えなきゃいけない
この強い思いから「命の授業」を始めたと渡辺さんは語る。
未来の子どもたちに本当に残したい“真実”を伝えるために
この授業では幼い頃からの意識づけを目的とした啓発・啓蒙活動が続けられている。
かつては「ふれあい教室」「なかよし教室」など動物の可愛さに焦点を当てたカリキュラムであった。
しかし現在の教材では、現場の担当者が工夫を重ね、学年に応じて動物の性質や役割、実話(動物と共に生きることで得られるやさしさ、あたたかさ、かけがえのない時間、そうした命の素晴らしさを伝える)などを多角的に伝える内容へと進化している。
さらに今後命の授業と同時進行で対策に対する啓発
―どうしたら「殺処分」を防げるのか?
と、命を守るための行動を促す啓発にも取り組まれるそう。
当時の状況を知る人が少なくなる中で
こうした授業が積み重ねられてきた背景には
多くの人の努力と願いがあった。
その積み重ねの先に、
「命の授業」は少しずつ多くの人に届き
社会にも静かな変化が訪れ始めている。
「ただのふれあいではない、真実を伝えたかった。」
―「命の授業」は、未来へのプレゼントではないだろうか。
それは、大人が未来の世代に渡す“本当のやさしさ”の形ではないだろうか。
Famyが受け取ったバトンの未来
渡辺さんと工藤さんが動物たちの代弁者として
託してくださった「命のバトン」。
その背景には、行政だけではなく、多くの人々の努力と協力によって支えられてきた積み重ねがあることを
渡辺さんは繰り返し語っていた。
その姿勢には、動物と人が共に生きる未来を本気でつくろうとする意思が感じられた。
Famyはそのバトンを受け取り、ただ「商品を売るブランド」ではなく、「やさしさを届ける存在」として
真実を伝え、行動で応えていくブランドでありたい。
わたしたちは今日も活動を続けていく。
おおいた動物愛護センター 所長 渡辺さんより
このたびは遠方より日帰りでのご来所、
心より感謝申し上げます。
Famyの熱意と行動力に感銘を受け、亡き工藤獣医師もきっと喜んでいることでしょう。
命の授業を始めた頃は誤解や非難、危険さえもありましたが、
未来への贈り物だと信じ貫いてきました。今の愛護の在り方は、先人の努力の賜物です。
どうかその想いを、時に思い出していただけたら幸いです。
筆:つむぎと麹の姉
